ナナンの旅 第5話「事件の真相」

第1章:旅の始まりと出会い

第5話「事件の真相」

魔物の出現という知らせは、まるで嵐のようにリーフの街を駆け巡った。

夕食時の賑わいは一瞬で消え去り、食堂は重苦しい沈黙に包まれた。
人々は不安に駆られ、足早に家路を急ぎ、通りは閑散とし始めた。

店は戸板を閉め始め、街全体が薄暗い影に覆われていく。
宿屋の食堂も例外ではなく、先ほどまで談笑していた客たちは、不安そうな表情で小声で話し合っている。

暖炉の火だけがパチパチと音を立て、静寂を際立たせていた。

ナナンはエリンに話を聞いた。
彼女の顔は蒼白く、普段の快活さは見られない。

「この辺りで魔物が出るなんて、聞いたことがないですね。 一体何が起こっているんだろう?」

ナナンが尋ねると、エリンは不安そうな表情で首を横に振った。

「私も初めてです。 森は薬草の採取でよく行くのですが、魔物の気配を感じたことは一度もありませんでした。 せいぜい、大きな獣の足跡を見かけるくらいで… こんなことは… 」

エリンの声は震えていた。
彼女にとって、森は生活の一部であり、薬師として大切な場所だった。

その森に魔物が出現したという事実は、彼女の日常を根底から揺るがす出来事だった。

宿屋の一室では村長と街の自警団が集まり、対策を協議していた。
低い声が時折聞こえてくるが、内容は断片的で状況の混乱を物語っていた。

ナナンは、彼らの話に耳を傾けようとしたが、情報が錯綜しており、具体的な対策を立てられている様子はなかった。

村人は「巨大な影を見た」「聞いたことのない唸り声を聞いた」と証言するものの、具体的な魔物の姿を見た者は誰もいない。

情報が曖昧なため、自警団もどう対処すれば良いのか分からずにいるようだった。

ナナンの心に、小さな疑問が芽生え始めた。

エリンから聞いた話では、この周辺の森には強力な魔物は生息していないはずだ。
せいぜい、狼や熊といった獣類が生息している程度だと聞いていた。

それに、襲われたという村人の話が食い違っている点も気になった。

ある者は「鋭い爪で引っ掻かれた」と言い、別の者は「鈍器で殴られたような痛みだった」と言う。

同じ魔物に襲われたにしては、傷の具合が異なっている。

そこで、ナナンは自ら情報を集めることにした。
このまま宿屋で待っていても、状況は好転しないだろう。

自分の目で見て、耳で聞いて、真実を確かめる必要がある。

まず、襲われたという村人の家を訪ねる事にした。
その村は宿屋のあるリーフの街から少し離れた場所にあり、木造の家々が点在している。

訪ねた家では、老夫婦が不安そうな顔で出迎えてくれた。
話を聞くと、村人は皆一様に「巨大な影を見た」「聞いたことのない唸り声を聞いた」と証言するものの、具体的な魔物の姿を見ていない。

夜の暗闇の中で何かが動く影を見た、という程度の証言だけだった。
また、見せてくれた傷も、確かに何かに引っ掻かれたような跡はあるものの、深くはなく出血も少ない。

魔物の攻撃にしては、あまりにも軽傷だ。

次に、ナナンはエリンと共に森へ向かった。

エリンは最初は渋っていたが、ナナンの熱意に押され、薬草採取用の籠を持って同行することになった。
森は昼間でも薄暗く、木々の間から差し込む木漏れ日が地面にまだら模様を描いている。

空気はひんやりとして湿っており、土と草の匂いが混ざり合っている。

襲われた現場とされる場所にたどり着くと、確かに何かが暴れたような跡があった。

草は踏み荒らされ、木の枝が折れている。
しかし、魔物の足跡らしきものは見当たらない。

獣の足跡はあるものの、それはこの森に生息する動物のものと一致する。
代わりに、ナナンは妙なものを見つけた。

それは、地面に散らばった薬草の痕跡だった。
よく見ると、それは強い麻痺作用を持つ薬草だった。

葉は細長く、独特の香りを放っている。
ナナンは薬草図鑑で見たことがある。

その薬草を見た瞬間、ナナンはある可能性に思い至った。

この一連の騒動は、魔物の仕業ではないかもしれない。
もしそうなら、一体何が起こっているのか。

ナナンの頭の中で、様々な可能性が渦巻き始める。

ナナンはエリンと共に、森で見つけた薬草の痕跡をさらに詳しく調べていく。

麻痺作用を持つその薬草は、確かに村の周辺にも自生しているが、これほど大量に、しかも人為的に散乱しているのは不自然だった。エリンも首を傾げている。

「確かに、この薬草は鎮痛や麻痺の効果があるけれど、こんな風に使われているのを見たのは初めてだわ。 それに、こんなに大量に… 一体何のために… 」

エリンは薬草を手に取り、更に注意深く観察していく。
葉の裏側には、何かに擦り付けられたような妙な跡があった。

「これは… 何かに塗り付けられた跡ね。 おそらく、布とかに擦り付けて、そうやって使ったんじゃないかしら。」

エリンの言葉に、ナナンの推理が確信に変わる。

これは、魔物の仕業ではない。
人間が、意図的に魔物の仕業に見せかけようとしたのだ。

その夜、ナナンは村長に自分の推理を話した。
宿屋の一室に集まったのは、村長、自警団のリーダー、そしてナナンとエリン。

「村人を襲ったのは、魔物ではなく、人間かもしれません。 麻痺作用のある薬草を使って、村人を襲ったように見せかけたのではないでしょうか?」

ナナンの言葉に、村長は最初は信じられないといった表情になった。

「何? 人間だと? そんな馬鹿な… 村人は確かに、巨大な影を見たと言っておる… 」

しかし、ナナンは冷静に、森で見つけた薬草の痕跡、村人の傷の不自然さ、そして何よりも、この森に強力な魔物がいないというエリンの話を持ち出した。

村長は徐々に、ナナンの説明に耳を傾けるようになっていった。
エリンも、薬師としての立場から、ナナンの推理を裏付けるように説明を加えた。

村長はしばらく考え込んだ後、重い口を開いた。

「 …分かった。 お前の言うことも、一理あるかもしれん。 自警団に指示し、最近街に出入りしている不審者を探させてみよう。」

翌日、自警団は街の隅々まで捜索を行い、数日前に街にやって来たらしい素性の知れない男たちの事が浮上した。

彼らは普段から素行が悪く、村人たちからも警戒されていた。
自警団が彼らを捕らえ尋問したところ、最初は否認していたものの、次第に口を割り犯行を認めた。

彼らは、村から食料を盗むために、魔物の仕業に見せかけていたのだ。

事件は無事解決し、街には再び平穏が戻った。
人々は安堵の表情を浮かべ、ナナンに感謝の言葉を述べた。

ナナンの薬学知識と冷静な判断力で街の人々を救ったことは、瞬く間に街中に広まり、彼は一躍街の英雄となった。
エリンもナナンの推理力に深く感心し、彼を見る目は、尊敬の色を帯びていた。

事件を通して、二人の間には、より深い信頼関係が生まれた。

しかし、ナナンは心の奥底で、拭いきれない違和感を覚えていた。

盗賊たちの動機が、食料を盗むためだけにしては、あまりにも大掛かりすぎるように感じたのだ。

麻痺薬を使った偽装工作、村人への襲撃、そして何よりも、彼らが持っていた武器が、普通の盗賊が持つような粗末なものではなかった。
精巧に作られた剣や、見慣れない装飾が施されたナイフ。

それらは、訓練された兵士や、もっと大きな組織に属する者が持つようなものだったのだ。

ある夜、ナナンは宿屋の窓から外を眺めていた。

月明かりに照らされた街並みは静かで、虫の音が微かに聞こえる。
その時、街の外の森の方で、何者かが密談しているのを目撃した。

木々の影に隠れていて、顔はよく見えない。
しかし、彼らの低い声が、微かに風に乗って聞こえてきた。

「 …計画は順調に進んでいる。 この街の混乱は、始まりに過ぎない… 」

男たちの言葉を聞いたナナンは、背筋が寒くなるのを感じた。

心臓がドキドキと高鳴り、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
この街で起こった事件は、単なる盗賊事件ではなく、何か大きな陰謀の一端かもしれない。

彼らは一体何者なのか?
そして、彼らの目的は何なのか?

新たな謎が、ナナンの心を覆い始めた。

エリンとの間に生まれた絆も、この新たな謎の前では、まだ脆いものに思えた。

この静かな街の裏で、何かが蠢き始めている。

ナナンは、その予感に慄きながら、夜空を見上げていた。

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