第3章:悲しみと希望の狭間で
第11話「故郷の異変」
王都イリスで起こった異変、そして家族や友人の安否不明という知らせは、ナナンの心を激しく揺さぶった。
いてもたってもいられず、世界樹探訪を一時中断し、故郷へ戻ることを決意したナナン。
ルークとの別れを惜しみつつも、今は一刻も早くイリスに戻らなければならない。
ナナンは、セーラに事情を説明し、共に王都へ向かうことになった。
「セーラ、本当にすまない。君にも世界樹のことで協力してもらっていたのに……。」
ナナンは、申し訳なさそうに言った。
「気にしないで、ナナン。今はあなたの家族が最優先よ。それに、私も王都で起こった異変のことが気になるわ。」
セーラは、優しく微笑み、ナナンの背中をそっと押した。
その温かさに、ナナンは少しだけ心が軽くなった。

二人は、急ぎ足で王都イリスへと向かった。
道中、彼らは多くの避難民とすれ違った。
その誰もが、不安と恐怖に満ちた表情を浮かべていた。
ナナンは、その様子を見るたびに、胸が締め付けられる思いがした。
「ねえ、あなたたち、王都から来たの?」
セーラは、すれ違いざまに一人の避難民に声をかけた。
「ああ、そうだよ。ひどい目に遭った……。」
避難民は、疲れ切った様子で答えた。
「一体、何があったんですか? 僕たち、リーフの街で、王都の大神殿を中心に街の一部が消失したって聞いたんですけど……。」
ナナンが尋ねると、避難民は首を横に振った。
「消失? いや、そんなことはなかった。確かに、大神殿から赤い光が放たれたのは見たが、建物には何も被害はなかったぞ。」
「え……?」
ナナンは、予想外の答えに困惑した。
「じゃあ、一体何が……?」
「分からない。だが、あの赤い光を浴びた人々は、みんな……。」
避難民は、言葉を詰まらせ、うつむいた。
「外傷は無いんだ。だが、ひどく衰弱していて、まるで魔力を全て吸い取られたみたいに……そして、そのまま……。」
避難民は、それ以上言葉を続けられなかった。
しかし、ナナンにはその先を言われずとも理解できた。
「そんな……。」
ナナンは、愕然とした。
リーフの街で聞いた話と、避難民の話は大きく食い違っていた。
どちらも、嘘をついているようには見えない。
一体、どちらが真実なのか?謎は深まるばかりだった。
「セーラ、どう思う?」
ナナンは、隣を歩くセーラに意見を求めた。
「分からないわ、とにかく王都に着かないとね。」
セーラは、冷静に答えた。
「ただ、情報に齟齬が生じてるわね。実際に赤い光は観測された、そして消失したと聞いた集団と、魔力枯渇を知る集団。おそらくは、王都で情報封鎖がされて詳細な情報が外部に漏れないようにしたのでしょう。」
「そんな……でも、それならなおさら、早く王都に戻らないと!」
ナナンは、焦りを募らせ、歩く速度を速めた。
セーラは、そんなナナンの様子を心配そうに見つめながら、静かに後をついていった。
王都イリスに到着したナナンとセーラは、変わり果てた故郷の姿に息を呑んだ。
いつもは活気に満ち溢れていた街並みは、今は静まり返り、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。

「急ごう、セーラ!」
ナナンは、実家に向かって走り出した。
セーラも、急いでナナンの後を追う。
実家は、いつもと変わらずそこにあった。
しかし、扉は固く閉ざされ、人の気配が全く感じられない。
ナナンは、不安に駆られながら、何度も扉を叩いた。
「父さん!母さん!いるんだろ!?」
しかし、返事はなかった。家の中は、静まり返っていた。
「ナナン、落ち着いて。」
セーラが、ナナンの肩に手を置き、優しく声をかける。
「もしかしたら、避難しているのかもしれないわ。近くの人に聞いてみましょう。」
セーラは、周囲を見渡し、巡回中の兵士たちに声をかけた。
「すみません、この家の住人について、何かご存知ありませんか?」
兵士たちは、ナナンの顔を見ると、何かを察したように表情を曇らせた。

「もしかして、ヨハンとリアの息子さんですか?」
「はい、そうです!父と母はどこにいるんですか!?」
ナナンは、兵士に詰め寄った。
「落ち着いて聞いてください。被害に遭われた方々は、今、大神殿の礼拝堂に集められています。」
「大神殿……?」
ナナンは、嫌な予感に胸騒ぎがした。
「そこに、父さんと母さんもいるんですか……?」
「……はい。」
兵士は、重々しく答えた。
「そんな……!」
ナナンは、兵士に礼を言うのも忘れ、大神殿に向かって走り出した。
「ナナン!」
セーラは、兵士たちに頭を下げ、ナナンの後を追った。
大神殿の礼拝堂は、重苦しい空気に包まれていた。
そこには、多くの人々が集まり、静かに祈りを捧げていた。
ナナンは、人々の間をかき分け、両親と幼馴染の姿を探した。
ここにいないでくれ、そう願いながら。
しかし、運命は残酷だった。
礼拝堂の奥、祭壇の近くに、ナナンのよく知る二つの人影があった。
「父さん……母さん……。」
そこに横たわっていたのは、既に冷たくなったヨハンとリアの姿だった。
そして、その傍らには、意識を失い、瀕死の状態のミラが横たわっていた。
「うそだ……うそだ……!」
ナナンは、その場に崩れ落ち、茫然と立ち尽くした。大切な家族を、友人を、一瞬にして失ってしまったのだ。
ナナンの悲痛な叫びが、静寂に包まれた礼拝堂に響き渡った。
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