第2章:古代遺跡と世界の真実
第8話「遺跡の奥深く」
古代遺跡の門は、夕日に染まり、その威容をさらに際立たせていた。
荘厳でありながらも、どこか物悲しげな雰囲気を纏う巨大な門は、長い年月を経て、その表面に無数の傷を刻み込まれている。
まるで過去の栄光と衰退を物語っているかのようだった。
セーラは門に近づき、その表面に手を触れる。
ひんやりとした感触が、彼女の指先から伝わってきた。
「……誰かが、すでに侵入した形跡があるわ。」
彼女は鋭い眼差しで、門の周囲を観察した。
確かに、巨大な石扉はわずかに開いており、その隙間からは薄暗い内部が垣間見える。
扉を固定する金属製の留め具は外され、地面に無造作に転がっていた。
「ロックは解除されているみたいね。気をつけて、ナナン、ルーク。」
セーラの言葉に、ナナンとルークは緊張した面持ちで頷いた。
ナナンは腰に差した短剣の柄を握りしめ、ルークは周囲の気配を探るように、目を細めていた。
三人は慎重に門を押し開き、遺跡内部へと足を踏み入れた。
一歩踏み出すごとに、靴底が石畳に触れる音が、静寂に包まれた空間に響き渡る。
◇ ◇ ◇
内部は、外から差し込む夕日の光が、かろうじて通路を照らしているだけで、奥に進むにつれて、闇が深くなっていく。
壁には、苔やツタが絡みつき、長年の放置を物語っていた。
空気はひんやりと冷たく、どこか湿っぽい匂いが漂っている。
「……すごいな、この遺跡。」
ナナンは、感嘆の声を上げた。
彼は周囲を見回し、壁に描かれた壁画に目を奪われた。
壁画には、見たこともないような巨大な樹木が描かれている。
それは、ナナンがこれまで見てきた、どんな木よりも大きく、枝葉は天を突き刺すように伸び、その根は、まるで大地を掴んでいるかのようだ。
「これは……世界樹、なのかな?」

ナナンは、呟くように言った。
彼は、エルフの吟遊詩人が語っていた、伝説の世界樹を思い浮かべていた。
壁画に描かれた樹木は、まさにその伝説を体現しているかのように見えた。
「……世界樹……かは、まだわからない。…ルークは、こんな壁画、見たことある?」
セーラはルークに質問した。
「いや、初めてだね。…でも、なんか感じるね…。」
そう言うルークは、壁画に近づいて、じっと見つめている。
「何が?」
セーラが問う。
「なんて言ったらいいのかな…、この壁画、ただの絵じゃない。何か……強い力を感じるんだ。」
ルークは、真剣な表情で言った。
彼は壁画に手を触れ、その表面をなぞった。
「ナナンはどう?」
セーラはナナンにも意見を求めた。
「うん、僕も、何かを感じるよ。…この壁画、すごく古いと思うんだけど、なんか、新しいような気もするんだ。」
ナナンは、壁画に描かれた世界樹の絵を指差しながら言った。
「新しい…?」
セーラは、ナナンの言葉に首を傾げた。
「うん。…うまく言えないんだけど、この絵、描かれたのはすごく昔だと思う。でも、なんか……まだ、描かれ続けてるような…そんな感じがするんだ。」
ナナンは、自分の感じていることを、うまく言葉にできないもどかしさを感じながら、説明した。
「…不思議な感覚だね。…でも、その感覚、大事にした方がいいかもしれない。」
ルークは、ナナンに優しく微笑みかけた。
三人は、壁画に見入るのをやめ、さらに遺跡の奥へと進んでいく。
通路は、複雑に分岐し、まるで迷宮のようだ。
彼らは、慎重に足を進め、時折、立ち止まって周囲の気配を探った。
◇ ◇ ◇
しばらく進むと、広い空間に出た。
そこは、円形の広間で、中央には祭壇のようなものが置かれている。
祭壇は、黒曜石のような、漆黒の石で作られており、表面には複雑な模様が刻まれていた。

「これは……?」
ナナンは、祭壇に近づき、その表面を観察した。
模様は、彼がこれまで見たことのない、不思議な文字で構成されていた。
「古代文字……かな? セーラ、何か読める?」
ナナンは、セーラに尋ねた。セーラは、古代文字の研究にも精通していると聞いていたからだ。
「いや、これは……見たことのない文字ね。……古代語の知識は多少なりともあるけど…、これは…さっぱりね…。」
セーラの言葉に三人は、無言で顔を見合わせた。
それほどまでに古代の文明なのかもしれない。
「とりあえず…、ここを調べてみましょう。」
セーラの言葉に、ナナンとルークは頷いた。
三人は、広間を隅々まで調べ始めた。
ナナンは、祭壇の周囲を、ルークは広間の壁を、セーラは広間の床を、それぞれ担当して調査を進めた。
「セーラ、これを見てくれ。」
しばらくして、ルークがセーラを呼んだ。彼は、広間の壁の一部を指差していた。
セーラは、ルークが指差す場所を見て、目を細めた。壁には、小さな窪みがあり、その中に、何かが置かれている。
「これは……?」
セーラは、窪みに手を伸ばし、中の物を取り出した。
それは、金属製のプレートだった。
大きさは、18cm×9cmほどで、表面は滑らかで、何の模様も刻まれていない。
「ただの金属プレート……みたいね。」
セーラは、プレートを手に取り、裏返したり、光にかざしたりして、詳しく調べた。
しかし、特に変わったところは見当たらない。
「ルーク、これは何だか分かる?」
セーラは、プレートをルークに渡した。
ルークは、プレートを受け取り、じっくりと観察した。
「……分からないな。でも、何か……特別なもののような気がする。」
ルークは、プレートを指でなぞりながら言った。
「特別なもの…?」
セーラは、首を傾げた。
「うん。…何て言うか…… このプレート、何かの…… 魔道具のような気がするんだ。」
ルークは、自分の感じていることを、言葉にするのに苦労しているようだった。
「魔道具……? 何の?」
セーラは、さらに疑問を深めた。
「それは…… まだ分からない。でも、このプレート、きっと…… 世界樹と関係があると思うんだ。」
ルークは、真剣な表情で言った。
彼は、プレートをナナンに渡した。
「ナナン、君はどう思う?」
ナナンは、プレートを受け取り、じっくりと観察した。
彼は、プレートの表面を指でなぞり、その感触を確かめた。
「……僕も、ルークと同じように感じるよ。このプレート、何か…… 特別な力があると思う。」
ナナンは、プレートを手に持ったまま、目を閉じた。
彼は、プレートから伝わってくる、微かな感覚に集中した。
「……これは、きっと……世界樹を示す……アーティファクトだ。」
ナナンは、ゆっくりと目を開け、確信を持って言った。
「世界樹を……? 本当に、ナナン?」
セーラは、驚きの声を上げた。
「うん。…はっきりとは分からないけど、そんな気がするんだ。…このプレート、きっと……僕たちを、世界樹へと導いてくれる。」
ナナンは、力強く言った。
彼は、プレートを大切そうに、自分の胸ポケットにしまった。
その時、突然、遺跡全体が激しく揺れ始めた。
「な、なに!?」
セーラは、バランスを崩しそうになりながら、叫んだ。
「地震か!?」
ルークは、周囲を見回し、警戒を強めた。
「分からない! でも、何か…… 嫌な予感がする……。」
ナナンは、不安げな表情で言った。
揺れは、ますます激しくなり、天井からは砂埃が降り注いできた。
「まずいわね…… このままじゃ、遺跡が崩れる!」
セーラは、焦りの声を上げた。
「急いで脱出しよう!」
ルークは、ナナンとセーラを促し、出口へと走り出した。
◇ ◇ ◇
三人は、崩れ落ちる瓦礫を避けながら、必死に遺跡の外へと向かった。
しかし、出口は、すでに瓦礫で塞がれかけていた。
「くっ! 間に合わない……!」
セーラは、舌打ちをした。
その時、ナナンの目が、何かに気づいたように、大きく見開かれた。
「セーラ! ルーク! こっちだ!」
ナナンは、二人に手招きをした。彼は、広間の隅にある、小さな横穴を指差していた。
「あんなところに、穴が……?」
セーラは、驚きの声を上げた。
「分からないけど、試してみる価値はある!」
ルークは、すぐにナナンの元へと駆け寄り、横穴を覗き込んだ。
「よし、行こう!」
ルークは、横穴の中に飛び込んだ。セーラとナナンも、後に続いた。
穴の中は、狭く、暗かった。三人は、身を屈め、手探りで進んでいった。
◇ ◇ ◇
「……どこに繋がっているのかしら、この穴……。」
セーラは、不安げに呟いた。
「分からない……でも、外に出られるはずだ……。」
ナナンは、自分に言い聞かせるように言った。
しばらく進むと、穴の先に、かすかな光が見えてきた。
「光だ!」
ルークは、希望の声を上げた。
三人は、光に向かって、さらに進んでいった。
そして、ついに、穴の出口にたどり着いた。
◇ ◇ ◇
穴の外は、深い森の中だった。
三人は、穴から這い出し、大きく息を吸い込んだ。
「助かった……の……?」
セーラは、息を切らしながら言った。
「ああ……何とかな……。」
ルークも、疲れ切った様子で答えた。
「……遺跡は……?」
ナナンは、振り返って、遺跡の方を見た。
遺跡は、完全に崩壊し、巨大な土煙を上げていた。
「……消えたね。」
セーラは、呟くように言った。
「……世界樹のアーティファクトは、無事か?」
ルークは、ナナンに尋ねた。
「うん、大丈夫だ。」
ナナンは、胸ポケットから、金属プレートを取り出し、二人に示した。
プレートは、無傷だった。
「……良かった。」
ルークは、安堵の息をついた。
「……これから、どうする?」
セーラは、ナナンとルークに尋ねた。
「……世界樹を探す。」
ナナンは、迷いなく答えた。
「このアーティファクトが、きっと……僕たちを、世界樹へと導いてくれるはずだ。」
ナナンは、アーティファクトを手に取り、強く握りしめた。
「……そうだな。」
ルークは、力強く頷いた。
「……分かった。私も、協力する。」
セーラは、二人の決意に、心を動かされたようだった。
三人は、再び歩き始めた。
彼らの行く手には、深い森が広がっている。
しかし、彼らの心には、希望の光が灯っていた。
世界樹への手がかりを得たのだ。
彼らの旅は、まだ始まったばかりだ。
これから、どんな困難が待ち受けているのか、誰にも分からない。
しかし、彼らは、きっと、どんな困難にも立ち向かっていくはずだ。
世界樹を目指して――。

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