第2章:古代遺跡と世界の真実
第10話「世界の選択」
西の空を赤く染める光の柱を前に、三人は言葉を失っていた。
遺跡で明らかになった世界の真実、そして世界樹の未来予知の消失。
それらだけでも衝撃的な事実であったが、追い打ちをかけるように突き付けられたこの光景は、彼らにさらなる絶望を突きつけていた。

「世界樹様が未来を見失った上に、この光…… 一体、何が起こっているんだ……。」
ルークが、力なく呟く。
その声には、いつもの軽妙さはなく、深い不安が滲んでいた。
「こんなの、まるで世界の終わりみたいじゃない……。」
セーラもまた、普段の気丈さを失い、震える声で言った。
ナナンは、二人以上に強い衝撃を受けていた。
エルフの吟遊詩人の言葉を信じ、希望を抱いて世界樹を目指していた。
しかし、その希望の源である世界樹が、未来を見失っている。
その事実は、ナナンの心を深く打ちのめした。
「僕たちは、これからどうすればいいんだ……。」
ナナンは、地面に膝をつき、力なく呟いた。
その瞳には、絶望の色が濃く浮かんでいた。
しばらくの沈黙が、その場を支配した。
誰もが、これから進むべき道を見失い、途方に暮れていた。
◇ ◇ ◇
その時、ナナンはふと、エルフの吟遊詩人の言葉を思い出した。
『世界樹を目指せ』

そして遺跡で得た情報。
『四つのAI=四柱の神々、主神、破壊神、古代神、時空神』
『世界樹(時空神)は、この世界の全てを見通す存在』
「そうだ…… 世界樹に会えば、何か分かるかもしれない!」
ナナンは、顔を上げ、力強く言った。
「世界樹様は、未来を見失ったと言っても、何もかも分からなくなったわけじゃないはずだ。 きっと、この状況を打開する手がかりを、僕たちに示してくれる!」
ナナンの言葉に、セーラとルークは顔を見合わせた。
絶望に沈んでいた彼らの瞳に、再び希望の光が灯り始める。
「確かに、そうだな。 まだ諦めるのは早い。」
セーラが、力強く頷く。
「ああ、ナナンが言う通りだ。 世界樹に会うことが、今の僕たちにできる唯一のことかもしれない。」
ルークも、いつもの調子を取り戻し、笑顔を見せた。
「よし、そうと決まれば、まずはリーフの街に戻ろう。」
セーラが立ち上がり、先導するように歩き出す。
「そこで装備を整えて、改めて世界樹を目指すんだ。」
ルークが、ナナンの肩に手を置き、励ますように言った。
「ありがとう、二人とも。」
ナナンは、二人に支えられながら立ち上がり、力強く歩き出した。
◇ ◇ ◇
リーフの街への帰り道、三人は西の方角、つまり王都イリスの方角から来る多くの避難民とすれ違った。
彼らの表情は一様に暗く、疲弊しきっていた。
その様子から、何かただならぬ事態が起こっていることが窺えた。
「イリスの方角から、こんなに多くの人が…… 一体何があったんだ?」
ルークが、不安げに呟く。
「何か、大きな災害でも起こったのかもしれないな。」
セーラも、厳しい表情で言った。
「イリスには、僕の家族や友人がいるんだ……。」
ナナンは、胸騒ぎを覚えながら、故郷の方向を見つめた。
◇ ◇ ◇
リーフの街に戻った三人は、薬師エリンの元を訪ねた。
エリンは、彼らを温かく迎え入れ、最近の出来事について話をしてくれた。

「例の赤い光について、何か知っているかい?」
ルークが、エリンに尋ねる。
「詳しいことは分からないけれど、あれはイリスの方角から放たれた光だったみたい。 そして、大変なことが起こったって……。」
エリンは、深刻な表情で言った。
「避難してきた人たちの話だと、イリス神殿を中心とする半径5km、一部のイリス王城を含む地域が…… 忽然と消失してしまったって」
「消失……!?」
3人は、驚愕のあまり言葉を失った。
「そんな、馬鹿な……。」
ナナンは、顔面蒼白になり、その場に崩れ落ちそうになった。
「ナナン、しっかり!」
セーラが、慌ててナナンの体を支える。
「父さんと母さん、それにライナスとミラは……? 無事なのか……?」
ナナンは、震える声でエリンに尋ねた。
ナナンの実家周辺は消失地域に含まれていた。
イリス神官見習いのライナスとイリス大商会の長女ミラは王都イリスに居た筈である。
「詳しいことは分からないけれど。 ただ、多くの人々が犠牲になったことは確かだって……。」
エリンは、悲しげな表情で答えた。
「そんな……」
ナナンは、絶望の淵に突き落とされた。
家族や友人が、無事である保証はどこにもなかった。
「僕は、一旦イリスに戻る。」
ナナンは、しばらくの沈黙の後、決意を固めたように言った。
「世界樹のことも気になるけど、それ以上に、家族や友人のことが心配だ。 みんなの無事を、この目で確かめておきたい。」
「ナナン……。」
セーラは、ナナンの気持ちを理解し、静かに頷いた。
「私も一緒に行く。 一人で王都に向かうのは危険だよ。」
「ありがとう、セーラ。」
ナナンは、セーラの優しさに感謝した。
「僕は……。」
ルークは、腕を組み、考え込むように言った。
「実は、急用ができてね。 このまま皆と一緒には行けそうにないんだ。」
「急用……?」
ナナンが、不思議そうに尋ねる。
「ああ。ちょっと、ね。 まあ、心配はいらない。 必ず、また会えるさ。」
ルークは、いつものように飄々とした態度で言った。
しかし、その瞳の奥には、どこか寂しげな光が宿っていた。
「約束だぞ、ルーク。」
ナナンは、ルークに手を差し出した。
「ああ、約束だ。」
ルークは、ナナンの手を力強く握り返した。
こうして、3人はリーフの街で別々の道を歩むことになった。
ナナンとセーラは、家族や友人の安否を確かめるため、そして世界の危機を救う手がかりを求めて、王都イリスへと向かう。
一方、ルークは、己のなすべきことの為に、一人別の道を歩み始めた。
一体、王都イリスで何が起こったのか?
そして、ナナンの家族や友人は無事なのか?
それぞれの想いを胸に、彼らの新たな旅が始まる。

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