ナナンの旅 第12話「悲しみを乗り越えて」

ドアを開けると、そこには王城の使いが立っていた

第3章:悲しみと希望の狭間で

第12話「悲しみを乗り越えて」

愛する家族、そして瀕死の友人を目の当たりにしたナナンは、深い悲しみの淵に沈んでいた。
その心は、まるで空虚な洞窟のように、何もかもが失われ、ただ暗闇が広がっているかのようだった。

「ナナン……。」

セーラは、言葉を失い、立ち尽くすナナンの背中に、そっと手を伸ばした。
その温もりが、ナナンの凍てついた心に、わずかな光を灯す。

セーラは無言で、ナナンの体を優しく抱きしめた。

セーラの優しさに、ナナンは堰を切ったように涙を流した。
それは、悲しみ、怒り、そして絶望、様々な感情が混ざり合った涙だった。

どれくらいの時間が経っただろうか。
やがて、ナナンの嗚咽は静まり、静寂が礼拝堂を包み込んだ。

「……もう、大丈夫。」

ナナンは、涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、まだ深い悲しみの色が残っていたが、同時に、新たな決意の光も宿っていた。

「ありがとう、セーラ。君がいてくれて、本当に良かった。」

ナナンは、セーラに心からの感謝を伝えた。

「私は、何も……。」

セーラは、謙遜するように言ったが、その表情はどこか誇らしげだった。

「ナナンは水魔法が使えたわよね?そして、お父様は宮廷薬師だった。ナナンは小さい頃からその様子を見ていた。そうよね?」

セーラは、落ち着きを取り戻したナナンに、矢継ぎ早に質問を投げかけた。

「ああ、そうだよ。父さんの仕事の手伝いも、よくしていたからね。」

ナナンは、頷きながら答えた。

「ナナンは魔法薬(ポーション)を作った経験は?」

「何度もあるよ。今も、いくつか持っている。」

ナナンは、腰のポーチから小さな瓶を取り出した。中には、淡い青色に輝く液体が入っている。

「でも、自分で使ったことがあるけれど、普通の傷薬とそれほど変わらない気がする。傷の治りが少し早くなる程度だよ」

セーラは、ナナンの話を聞き、暫し思案する。

「もしかしたら……ナナンは自身の持つ薬草知識と水魔法の関係性、魔法薬の貴重さと効力を理解していないのかもしれないわね。」

セーラは、傭兵時代の経験を思い出しながら、魔力と生命力の関係について説明を始めた。

「魔力は、この世界の誰もが持っている生命エネルギーのようなもの。ただし、それを魔法として行使できるのは、ほんの一握りの才能ある者だけなの。」

「持久力に似ていて、短時間に大量の魔力を使えば、魔力枯渇、所謂、昏睡状態になるわ。逆に、魔力の消費を抑えれば、強力な魔法も長く使える。だから、薬品や魔法陣、人員を使った儀式魔法が一般的なの。一部の天才以外には魔法は多くの制約を受けるモノなのよ。」

「魔力の回復は体力の回復と同じ。食事、休養、睡眠、そして時間の経過で回復するわ。」

「そして、魔力は生命力の基礎となるもの。大量の魔力消費は、突然死をもたらす危険性があるの。」

「魔法を行使して魔力枯渇状態にある時は、回復魔法や魔法薬を使っても、失われた魔力の一部が回復するだけで、生命力、つまり傷などは、私達の世界と同程度にしか回復できないわ。」

「身体強化でも魔力は消耗する。ただし、身体強化は体内での魔力循環が主だから、非常に燃費が良くて、ほとんど魔力を消費しない。だから魔法薬の効きも中程度なの。」

「逆に、魔力を使えない、つまり魔法適性の無い人は、回復魔法や魔法薬の効果が即効性を持って現れる。ほぼ即死以外は、一瞬で回復できるのよ。」

「つまり、魔法は強力だけど、使用には死亡リスクや弱体化という大きな代償が伴うの。」

セーラの説明を、ナナンは真剣な表情で聞いていた。
今まで、漠然と理解していた魔法の仕組みが、セーラの言葉によって、明確な形となって理解できていく。

「つまり、僕の作った魔法薬は、普通の人にとっては、すごく貴重なもの……ってことなのか?」

ナナンは、自分の作った魔法薬の価値を、ようやく理解し始めた。

「ええ、その通りよ。特に、魔力を使えない人にとっては、命を救う奇跡の薬と言っても過言ではないわ。」

「試してみる価値はあるかもしれないわ。ミラさんに、あなたの魔法薬を使ってみましょう。」

セーラは、意識を失い、瀕死の状態のミラを指差した。

ナナンは、セーラの提案に頷き、ミラの元へ駆け寄った。
そして、持っていた魔法薬を、慎重にミラの口に流し込んだ。

すると、どうだろう。ミラの顔色がみるみるうちに良くなり、呼吸も安定してきたのだ。

「すごい……本当に、治ってきている……。」

ナナンは、自分の作った魔法薬の効果に、驚きを隠せなかった。

「やはり、あなたの魔法薬は、特別な力を持っているのね。」

セーラも、ミラの回復ぶりに目を見張った。

ナナンは、礼拝堂を見渡し、まだ息のある人々を見つけた。
数は少ないが、彼らもまた、赤い光の影響で瀕死の状態にあった。

「僕は、この人たちにも、魔法薬を使いたい。」

ナナンは、強い意志を持って言った。

「でも、ナナン、数が足りないわ。」

セーラは、ナナンの持つ魔法薬の量では、全員を救うことはできないことを指摘した。

「分かってる。だから、水魔法で魔法水を作り出して、それで魔法薬を希釈するんだ。」

ナナンは、そう言うと、水魔法を行使し始めた。
彼の周りに、水が集まり、淡い青色の光を放つ魔法水が生成されていく。

「神官様、お願いします。まだ息のある人たちに、それを分けて飲ませてあげてください。」

ナナンは、神官に魔法薬と魔法水を手渡し、人々の救助を依頼した。

しかし、水魔法の行使は、ナナンの体に大きな負担をかけた。
魔法水を渡し終えたナナンは、その場に崩れ落ち、意識を失ってしまった。

「ナナン!」

セーラは、慌ててナナンを抱きとめる。

「本当に、ナナンらしいわね……。」

セーラは、ナナンの優しさに苦笑いを浮かべながら、そっと呟いた。
そして、神官たちに宿泊する宿屋を教えてもらい、ナナンを抱えて、その宿屋へと運んだ。

宿屋に到着したセーラは、ナナンをベッドに寝かせ、その寝顔を見守った。

「全く、無茶ばかりして……でも、そういうところが、あなたの良いところなのよね。」

セーラは、そう呟きながら、ナナンの額にそっと手を当てた。

その時、宿屋の主人が、慌てた様子で部屋に駆け込んできた。

「大変だ!イリス王国が、戦時体制に入ったらしい!」

「戦時体制……?」

セーラは、嫌な予感に胸騒ぎがした。

「ああ。20年前の戦争では、宮廷魔導士のヨハン様の活躍で、この国は救われた。だが、今回の災厄で、そのヨハン様が亡くなられた。王都を離れることも、考えないといけないかもしれん……。」

宿屋の主人は、不安げに言った。

その時、部屋の外から、荒々しいノックの音が響いた。

「なんだ!?」

宿屋の主人が、ドアを開けると、そこには王城の使いが立っていた。

「ナナン殿はおられるか!?国家の緊急事態につき、至急、王城に出頭するよう、王からの勅命である!」

使いは、威圧的な態度で言った。

「ナナンは、今、意識不明の状態なの。とても、王城に行けるような状態ではないわ。」

セーラは、使いの言葉を遮り、冷静に答えた。

「何だと!?しかし、王命は絶対だ!」

「事情は理解できる。私が代理として王城に行くわ。」

セーラは、毅然とした態度で言った。

「お主が……?まあ良い、ナナン殿を連れて行く手間が省けた。では、直ぐに支度を!」

セーラは、眠り続けるナナンに視線を送り、小さく息をついた。そして、意を決して、使いと共に王城へと向かうのだった。

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