第3章:悲しみと希望の狭間で
第13話 「王の依頼」
薄暗い宿屋の部屋を後にし、セーラは王城へと向かう道を歩いていた。
その足取りは重く、心は深い憂いに沈んでいる。
ナナンの容態、そしてこれから待ち受けるであろう困難を思うと、胸が締め付けられる思いだった。
王城の謁見の間は、豪華な装飾が施され、高い天井からは巨大なシャンデリアが煌々と輝いていた。
しかし、その華やかさも、セーラの心を晴らすことはできなかった。
玉座に座るイリス王、エドワード・ウィリアム・フォン・イリスは、威厳に満ちた表情でセーラを見据えていた。
その眼差しには、王としての威厳だけでなく、この世界を覆う暗雲への深い憂慮が滲んでいた。

「セーラと申します。この度は、呼び出しに応じ、参上いたしました」
セーラは、恭しく頭を下げ、王に敬意を表した。
「うむ。本来ならば、ヨハンの息子ナナン殿を呼びたかったのだが、今はそれも叶わぬと聞いた。故に、代理としてそなたを呼んだ次第だ」
エドワード王は、重々しく口を開いた。
「まずは、この度の災厄について、改めて説明せねばなるまい。既に知っておるかもしれぬが、世界各地で、神殿を中心とした襲撃事件が発生しておる」
王は、言葉を選びながら、慎重に話を続けた。
「それらの事件は、単なる破壊行為ではない。高度な技術、そして……怪しげな術が用いられておる。敵の正体は未だ掴めておらぬが、相当な力を持つ存在であることは間違いない」
「他の国々でも同様の被害が出ており、いずれも大都市の神殿が標的となっておる。これは、もはや一国だけの問題ではない。世界大戦の危機が、すぐそこまで迫っているのだ」
王の言葉に、セーラは息を呑んだ。
世界の危機……それは、想像を絶するほどの重い言葉だった。
「この危機に対処するため、余は、ヨハンの息子であるナナン殿に、調査を依頼したいと考えておる」
王は、セーラの目を真っ直ぐに見つめ、静かに、しかし力強く言った。
「ナナン殿には、世界樹の存在するエルガーデン大森林へと向かってもらう。そこで、今回の事件の真相、そして敵の正体を突き止めてもらいたい」

「ナナン殿に依頼する理由は、主に三つある」
王は、指を一本ずつ折りながら、その理由を説明した。
「一つ、ナナン殿は水魔法の素養を持つ。それは、今後の危機を乗り越える上で、大きな力となるであろう」
「二つ、ナナン殿は、ヨハンとリアの息子であり、薬学の知識と経験を受け継いでいる。それは、敵の術を見破り、対抗策を見出す上で、必ずや役に立つはずだ」
「三つ、ヨハンとリアは、エルフの長と懇意であり、20年前のイリス防衛戦では、共に戦った仲間であった。エルフの協力を得る上で、これほど心強いことはない」
王は、一呼吸置き、セーラに問いかけた。
「セーラ殿、ナナン殿が目覚めたら、このことを伝え、王城に来るよう、伝えてもらえぬか?」
「……承知いたしました」
セーラは、深く頭を下げ、王の依頼を受け入れた。
謁見を終えたセーラは、重い足取りで宿屋へと戻った。
その心には、王から託された重大な使命と、ナナンへの心配が入り混じっていた。
宿屋に戻ったセーラは、主人に王城での出来事を話した。
主人は、ナナンの重要性を改めて認識し、セーラの話に真剣に耳を傾けた。
「まさか、ナナン君が、そんな重大な使命を……」
主人は、驚きを隠せない様子だった。
「ええ。でも、今はナナンが目覚めるのを待つしかないわ」
セーラは、そう言って、ナナンの寝ている部屋へと向かった。
翌朝、ナナンはゆっくりと目を覚ました。
まだ体は重かったが、意識ははっきりしていた。
「セーラ……ここは……?」
ナナンは、ぼんやりとした様子で辺りを見回した。
「ナナン、良かった……目が覚めたのね」
セーラは、ナナンの顔を見て、心から安堵した。

「王様からの依頼よ。ナナンに、エルガーデン大森林へ行って、今回の事件の調査をしてほしいとのことだわ」
セーラは、ナナンに、王城での出来事を詳しく説明した。
ナナンは、セーラの話を聞き、最初は驚いた様子だったが、次第にその表情は真剣なものへと変わっていった。
「分かった。父さんと母さんのためにも、僕にできることをするよ」
ナナンは、力強く頷いた。
「行きましょう、王城へ」
セーラに促され、ナナンとセーラは王城へと向かう。
道中、ナナンは様々な思いを巡らせていた。
(父さん、母さん……僕は、まだ何も分かっていない。でも、必ず真実を突き止めてみせる。そして、この世界を守ってみせる……)
ナナンは、父と母の遺志、そして母から教えられた「優しさ」と「強さ」を胸に、決意を新たにした。
王城に到着したナナンとセーラは、衛兵に案内され、謁見の間へと向かった。
エドワード王との謁見を前に、ナナンは緊張と決意の入り混じった表情を浮かべていた。そ
の瞳には、悲しみを乗り越え、未来へと進もうとする強い意志が宿っていた。
コメント